★ はじめに ★
今回は第3話「IC-R8500基準発振器【X1】のPLL化」です。
( PLL : Phase Locked Loop )
◆なぜやるか? 基準発振器【X1】のPLL化◆
昨今、1200MHz帯でもCW、SSB、RTTY、WSJTなどの狭帯域モードが快適に運用されるほど
アマチュア無線機の機能が向上しました。
これらを受信するには、周波数安定度が重要です。
そこで、今回はGPS受信機からの10MHz出力に依存し基準発振器【X1】(30.200MHz)を安定化する
PLL実験を行いました。 結果は★Good !です。
IC-R8500のオリジナルTCXO、オプションのCR-293では1200MHz帯ともなれば、周波数安定度は少し
甘いです。
PLLの基本動作(参考) ←クリック一発
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【1】PLL化への動機・・・X1 が握っている!IC-R8500の安定度
基準発信器は、経過時間に対する周波数安定度が重要です。
【 ここが狙い目 →→ X1の安定化 】
IC-R8500は、たった1個の基準発振器 X1(30.200MHz)を使って、これを分周し 各回路に必要な周波数を分配しています。 したがって、X1(30.200MHz)をPLL化 すれば、受信周波数全域にわたり安定化 できます。 さらに、SHF/Converterの親機としても 申し分ないですね。(当然受信のみですが) |
◆左図 X1 (CR-452 TCXO)を 取り除き、ここにPLLモジュール からの30.2MHzを接続します。 |
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◆PLL化には基準とする周波数(Reference freq.)が必要です◆
私は、Trimble社のGPS受信機 Thunderbolt がありますので
これの10MHz出力を使いました。
GPS の 1PPS 信号で VCXO を制御して 1.16×10-12/日
の精度を誇る 10MHz 基準発振器です。
安定度・精度ともにGPSに従属依存するため安心です。
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◆ PLLモジュールのレイアウト ◆
PLLモジュールは後述の通り、完成品が入手出来ます。
さらには、IC-R8500の下面シャーシに、PLLモジュールの設置に最適なスペースがあります。(下図参照)
今回の「 PLL-モジュール」のレイアウト |
←写真の箇所(SpaceBOX)ですが、 本来の目的は何でしょうね? 元々は「AC100V対応電源部」のための スペースでしょうか? (種々に使えますけど) ※写真下部の「鉄板」は外してあります。 |
【2】 PLL化は比較的簡単にできます
PLL基板の完成品を使うイイです。。。。
PLL基板の完成品が マキ電機(株)から発売されています。 (VCXOは、30.2000MHzで発注します) 定価 約¥12,000 VCXOなしの基板ユニットも入手出来ます。 ※写真マキ電機(株)完成品の例 ( SIZE 3.5 X 3.5 cm ) PLL-IC→MB15E06 位相比較周波数は10kHz |
※ ↓IC-R8500 SpaceBOX に実装した状態 (拡大)
■ VCXOは、三田電波(株)で製作してくれますが 5個以上まとめないとダメです。 1個でも製作してくれますが5個分の金額に なります。(約16,000円) |
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■ IC-R8500の安定度は?(チョット横道に逸れます)
(1)CR-452(オリジナル実装品TCXO)
周波数安定度:±3.0 [ppm] 以内 df/f≒1E-6 -10~+60[℃]
温度 補償型 水晶発振器TCXO (Temperature Compensated Xtal Oscillator)
±3.0[ppm]では145.00[MHz]で±435[Hz]、433.00[MHz]で±1299[Hz]となります。
1295.700[MHz]なら±3890.10[Hz]となります。
(2)CR-293(オプション品:ポジスター内蔵恒温槽型OCXO)
周波数安定度:±0.5 [ppm]以内 df/f≒1E-8 0~+60[℃]
温度 制御型 水晶発振器 OCXO (Oven Controlled Xtal Oscillator)
±0.5[ppm]では145.00[MHz]で±72.5[Hz]、433.00[MHz]で±216.5[Hz]となります。
1296.700[MHz]なら±648.35[Hz]となります。
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【CR-293の仕組み】
ポジスター(PTH)は、温度が上がると内部抵抗が上がって電流を減らし温度を下げる。
温度が下がると、内部抵抗が減って電流が多く流れて温度を上げる動作を繰り返しています。
結果的にある温度に収束されて安定した温度でXtalを暖めていて簡易な恒温槽的働きです。
(収束安定には数十分かかる)。
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(3)GPSに従属依存したPLL化
周波数安定度 : ±0.00001 [ppm] 以内 df/f≒1E-11 -10~+60 [℃]
1296.700[MHz]では、±0.012967[Hz] ★Good !です。
ちょっと前では考えられない精度がシャックでも容易に得られる時代になり
「時代の産物」 に感謝しています。
GPS受信機10MHzは、4分配して使っています。
分配には、テレビ用 BS/CS 分配器が ★Good ! です。
低域 f 特性が5~10MHzまで伸びているのでケーブルにF型コネクタを使えば対応でき
安価で便利です。
【MEMO】 [ppm]:「Parts Per Million」の頭文字、100万分の1
[ppb]:「Parts Per Billion」の頭文字、 10億分の1
1 ppb = 1E-9 = 1 ppm÷1000= 0.001 ppm
1 ppm = 1E-6 =1 ppb ×1000=1,000 ppb
0.01 ppb =1E-11 = 0.00001ppm
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【3】 PLL基板(完成品)の実装
◆実装手順 (下部カバーおよびPLL-B unit カバーを開いた状態)
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◆まず下部カバーおよびPLL-B unit カバーを開きます
◆PLL-B基板からオリジナル基準発振器X1(CR452)を外します
◆オリジナル基準発振器 X1(CR452)
◆オリジナル基準発振器TCXO-X1(CR452)を外します
◆基板裏面・・・X1のハンダを吸い取る。パターを痛めないよう素早く!
↓ ここの+5Vを、今回の PLL-module の電源に使います
◆PLLモジュールの実装(特段難しい所はありません)
◆GPS受信機からの10MHz注入用BNCコネクタ取付け加工(鉄板)
◆30.2MHz module をSpace-BOXに・・・・・実装
ユニバーサル基板を使って固定しました。(タッピングねじ4本)
30.2MHzOUT側のTMPコネクタは、無くてもかまいません。
私は作業を容易にするため基板分離用に設けました。
◆ 同軸ケーブルを使います
◆ 緑の線は、支え金具の代用です。赤色線は+5Vです。
◆緑の線は固定用です(無くてもかまいません)
◆ 配線接続完了
◆ Bottom view
◆ Rear Panel |
◆ 画面・左下BNCコネクタ・・・Reference GPS 10MHz- INPUT
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◆ さて、IC-R8500広帯域受信機のLo/PLL化はこれで完了です◆
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《余談》
◆ 30.200MHz/PLLユニット予備品の製作 ◆
私のPLLモジュールは、マキ電機(株)から購入しましたが壊してしまい、マキ電機(株)業務多忙ため・・・仕方なく・・・
JH1GYE/Arai さんに点検をお願いしました。
点検結果は、下段の通りです。(VCXOの不具合)
そこで、やむなく、三田電波(株)からVCXOを5個まとめて購入しましたが・・・。
三田電波(株)測定の「VCXO個別V-F特性」データ付きです。
もったいないので、予備品として残り4個を使って、PLLユニットをArai さんに製作していただきました。
Lo基準発振が30.200MHzのIC-910Dにも使えます。(予備品は既にQSYして残存はありません)
点検結果 ロックしない原因はVCXOのフリーラン周波数が ずれているためでした。 制御電圧=2V 位で使おうとすると30.2MHzで 約7.5 kHz 低い状態でした。 三田電波(株)に考えられる原因を尋ねたら・・・ 「外熱によるVCXOの故障」との見解で、半田ごて の熱などで 「VCXO内部で焼きつき」 が出たよう ですとのこと。(真偽ほどはわかりません) IC-R8500に実装したPLL-ICはMB15E06で、位相 比較周波数を高くしたほうが、応答速度やスプリアス 特性、波形の純度なども良くなります。 今回はできるだけ高くということで、66.666 kHzと しました。 PICのプログラムも変更しました。 |
※他の 「予備品4個」 は、PLL-ICにMB15E07SLを使っています。
07SLは、プリスケーラの構成が、MB15E06と異なり消費電流も異なるので回路定数とPICのプログラムも変更してあります。
PICのプログラムについては、割愛します。
◆下の回路図は、MB15E06 (IC-R8500に実装)のものです。
※画像をクリック一発で拡大します。 |
◆下の回路図は、MB15E06 (IC-R8500に実装)のものです。
※画像をクリック一発で拡大します。 |
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【5】 大成功、Lo-PLL化・・・・★Good !
◆1200MHz帯GPS依存でWSJTを運用中のアマチュア局を受信し周波数安定度
・精度ともに GPS従属依存が完成 したことを確認できました。
◆下の画像は1200MHz帯でWSJT-JT65Cを受信した画像です。
両局ともGPS依存の安定したキャリアですので輝線が真っ直ぐです。
(24時間連続受信しても 周波数は微動だに しません)
◆ これで、こちらの安定度も確認でき 、今回の実験は大成功でした。
私の「相棒」は、カクシャク(矍鑠)とし、Frequency counterもどきです。
◆ WSJT-JT65C受信画像 (横浜市、茅ヶ崎市からの信号)
◆ HF帶・・・気象FAX放送/JMH画像 (13,988.5kHz F3C) ★Good !
FAX同期信号合わせも一発ででき、安定した受信が出来ました。
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【6】 次なるテーマは・・・・・・・・・
① LO-PLLとCR-293との切替え使用が出来るようにすること。
アマチュア無線の場合は、ほとんどの方が、切替方式をとっています。
GPS受信機不具合、野外使用などのバックアップを考慮。
IC-R8500内部 Space BOX の空間があれば出来ますね。
② HF帶アンテナのコンパクト化 ( チューナー使用 etc. )
では・・・・この辺で・・・〆
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【完】
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